Story2. いつものまいにち

わんだの家から学校までの道には、いろんなお店があります。
わんだは、てく、てく、と歩きながら、いつものようにお店をながめていきました。

「あらぁ、わんだちゃん。おはよう!」
声をかけてくれたのは、パン屋さんのマミおばさんです。
ここのパンは、いつもお母さんと買いに来ています。
「おはようございます。」わんだがあいさつを返して向かいに目をやると、


コンビニが目に入りました。
毎朝この時間は、眠そうなお兄さんが店番をしています。いつもおんなじ表情で、違う表情のときをみたことがありません。
(あのお兄さん笑ったり怒ったりするのかな…?)
などと思っていると、

後ろから、「あらぁ、まなかさんのとこのおじょうさん。ごきげんよう。」という声が聞こえてきました。声が聞こえて、うげっ。
ぎぎぎ…っと振り返ると、そこには、ぷるぷるとした小さな犬を抱えたマダムが立っていました。
この人は、近所でもお話し好きで有名なルーチェ夫人。いつも、小さくてプルプルふるえる犬のマーブルを抱えて、町を歩いています。
ルーチェ夫人は、わんだがあいさつを終えるより先に、「この前バカンスに行ったときの話なんですけれどもね…!」と、話し始めました。

わんだは、この話をもう何度聞いたかわかりません。このあとには、宮中晩餐会に出席したという話が続くのですが、わんだはこの話をぜんぜん信じていませんでした。

わんだがそーっと後ずさりしていると、
「おや。わんださんにルーチェ夫人。おはようございます。」道の先からアマヤさんが歩いてきました。アマヤさんは、近くにある大学に通っているお兄さんです。とても人当たりがよく、さわやかなお兄さんで、いつもこの時間にすれ違います。
ルーチェ夫人は、アマヤさんを見つけると、「あらぁ、アマヤさん!」と、すっかりそちらに夢中。

わんだは、(今だ!)とばかりに、その場を離れました。

次に見えてきたのは美容室。
窓の向こうにサトウさんの姿が見えました。
わんだはいつもここで髪を整えてもらっています。
サトウさんは、わんだと目が合うと、にっこり笑って手を振りました。わんだも、ちょっと小さめに手を振りました。

そして次に見えてきたのは……本屋さん。

わんだは、このお店が好きではありません。

わんだがちょうど店の前を通りかかると、お店からおじいさんが出てきました。わんだと目が合うと、「ふんっ」と鼻を鳴らし、すぐに店の中へ。

このおじいさんは、いつもしかめっ面。
前にお店を通りかかったとき、お店の前に落ちていたゴミを見て、
「まったく、いまどきの若いやつは……」
と、わんだをぎろりとにらんだのでした。

しかも、お店の前には一匹のカメがいます。
水槽には「カメゾウ」と名前が貼ってあります。

カメゾウもおじいさんに負けないくらいのしかめっ面で、近づくと、
「バクッ!」と、なんでもかもうとしてきます。

だからわんだは、カメゾウもちょっぴり苦手。

なので、おじいさんがカメゾウにごはんをあげているときをみると、「いつか、おじいさんの手もバクッてするんじゃ……?」
と、ついつい一人と一匹を見てしまうしまうのでした。

ほかにも、八百屋さんや魚屋さん、ファミレス、小さなスーパー。
いつものお店を通り過ぎて、公園に差しかかったときでした。

公園のベンチに、でっかい影が見えました。
「あ!」
それは、猫のウィッギーでした。
ウィッギーは毛の長い猫で、それはそれは大きな猫です。
わんだが今まで見た中で一番大きく、ルーチェ夫人の犬のマーブルなんて、5匹集まっても敵わない、とっても大きい猫でした。

ウィッギーは、ある日は塀の上をおさんぽしたり、ある日はパン屋さんの看板の上で毛づくろい、ある日は美容室の床にころんと寝ていたり、町のいろんなところにいるのでした。

そして、この大きな猫は、たしかにきれいなおひさまのチャームがついた首輪をつけているのですが、その主人がなのかは、誰も知りません。

町の人はみんなウィッギーを知っています。
でも、飼い主のことだけは、誰も知らないのです。

しかも、ルーチェ夫人によると、
「私が子どものころから、この猫はこの町にいたの!」といっていましたが、わんだはこの話も信じていませんでした。

「おはよう、ウィッギー。」
わんだ が声をかけると、ウィッギーは尻尾をパタンッとひとふり。
そして、その大きな背中をなでさせてくれました。

ふわふわ。なでなで。

わんだはウィッギーをなでながら、ぽつりとつぶやきました。「……前はもっと、たくさん楽しいことがあった気がするんだけどな…」

ウィッギーはまた、尻尾をパタン、とひとふり。
けれど、それ以上は何も答えず、今度はごろんとお腹を太陽に向けて、寝転がりました。

「いいなぁ。ウィッギーは学校行かなくて。」
ふわふわ。もふもふ。
わんだがお腹をなでながらそう言うと、ウィッギーはまたひとつ、尻尾をパタン。

ー今日は学校。
 学校から帰ったら宿題をやって、明日の準備をして。
 明日も学校。明後日も学校。

わんだの毎日はこのところ、だいたいいつも同じです。

「……そろそろ行かなきゃだ。」
わんだはウィッギーの頭をぽんっとなでて、
「ありがと。」とひとこというと、ベンチから立ち上がりました。

そのとき、ウィッギーの首輪についていた、おひさまのチャームが、
きらり。
朝の光を受けて、小さく光りました。
わんだは、思わず振り返りました。
「……?」
でも、そこにあったのは、いつもと同じウィッギーと、いつもと同じ公園の風景でした。

わんだは遅刻しそうなことを思い出して、急いで学校へ向かいました。

――このときのわんだは、まだ知りませんでした。
いつものまいにちのなかに、
ひっそりとふしぎな世界がかくれている、ということを。

そして、わんだのなかにも、
すてきな「わくわく」が、しずかにねむっていることを。

ひみつのまちかどふしぎクラブ